法人営業の提案を数字で組み立てる方法 経費削減・売上向上の試算と伝え方

本記事は、法人営業を始めたばかりの方、営業研修を設計する方、提案が機能説明に寄りがちな営業担当者に向けた実務コンテンツです。
法人営業の提案で問われるのは、商品の説明量ではなく、顧客の経営数字に接続する設計力です。
その提案によって、コストはどれだけ下がるのか。
売上はどの経路で伸びるのか。
粗利はどれだけ残るのか。
業務効率は、時間と人件費に換算するとどれほど改善するのか。
ここまで整理されて初めて、提案は「説明」から「判断材料」に変わります。
営業代行の現場で、さまざまな商材に関わっていると、
「提案しても反応が薄い」
「商談までは進むが、受注につながらない」
「良いサービスなのに選ばれない」
という相談を受ける機会があります。
多くの場合、課題は商材ではなく提案設計にあります。
導入後にどの数字が動くのか。
その整理がないまま商談に入ると、顧客側は投資判断しづらくなります。
AI導入、システム導入、営業支援、広告活用。
施策名は違っても、評価軸は共通です。
導入後に、どの数字が変わるのか。
何時間削減されるのか。
いくら経費が下がるのか。
何件の商談が増えるのか。
どれだけ粗利が改善するのか。
法人営業の信頼は、聞こえの良さよりも、意思決定に耐える根拠から生まれます。
試算シートのダウンロード
本記事で紹介している、経費削減・売上向上の試算に使えるテンプレートはこちらからダウンロードできます。
▶ 経費削減・売上向上 試算シートをダウンロード
※
商談前の仮説設計、商談中の数字確認、提案書作成に活用してください。
提案価値を整理する
法人向けの提案価値は複数あります。
| 提案価値 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 経費削減 | 人件費、外注費、作業工数がどれだけ下がるか |
| 売上向上 | 商談数、受注率、単価、売上がどう変わるか |
| 利益改善 | 粗利、営業利益、投資回収がどう改善するか |
| リスク低減 | ミス、事故、属人化、法令違反をどれだけ抑えられるか |
| 品質改善 | 対応品質、処理精度、顧客満足度がどう上がるか |
| 採用・定着 | 採用単価、離職率、教育工数がどう変わるか |
| ブランディング | 認知、信頼、問い合わせにどう影響するか |
この中でも、最初に整理しやすいのが、
経費削減
売上向上
の2つです。
この2つは数字に落とし込みやすく、顧客側も判断しやすいテーマです。
提案を考えるときは、まず次のように整理します。
この提案は、コストを下げる話なのか。
売上や利益を伸ばす話なのか。
それとも、リスク低減や品質改善など別の価値が中心なのか。
この整理ができるだけで、提案は組み立てやすくなります。
商品説明で終わらせず、経営数字に翻訳する
法人営業で評価されるのは、商品を詳しく説明する力よりも、
機能を顧客の経営数字に翻訳する力
です。
たとえば、経理システムを提案する場合。
見るべきは、機能一覧だけにとどまりません。
見るべき数字は、
請求書処理に何時間かかっているのか。
何名がその業務に関わっているのか。
その人件費はいくらなのか。
導入後に何時間削減できるのか。
月間・年間でいくら改善するのか。
です。
営業支援ツールであれば、見るべき数字は変わります。
営業1名あたりの事務作業時間。
削減できる時間。
増やせるアプローチ数。
アポ率。
受注率。
平均単価。
粗利率。
同じ「効率化」の提案でも、対象部門によって見る数字は変わります。
ここを切り分けられるかどうかで、提案の質が変わります。
経費削減提案の基本
経費削減の提案では、まずこの式で考えます。
削減効果 = 削減時間 × 実質人件費 × 対象人数
ポイントは、人件費を給与だけで見ない視点です。
会社が人を雇用する場合、給与に加えて、社会保険料や雇用保険料などの会社負担が発生します。
つまり、月給25万円の人材を雇用している場合、会社の負担は25万円で収まりません。
事務職の人件費モデル
以下は、研修用のモデルケースです。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 職種 | 事務スタッフ |
| 月給 | 250,000円 |
| 勤務時間 | 月160時間 |
| 地域 | 東京 |
| 年齢 | 40歳未満想定 |
| 標準報酬月額 | 260,000円 |
社会保険料は、給与そのものではなく標準報酬月額をもとに計算します。
日本年金機構では、厚生年金保険料について「標準報酬月額 × 保険料率」で計算し、事業主と被保険者が半分ずつ負担すると説明されています。また、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
東京都の協会けんぽ・令和8年度保険料額表では、報酬月額25万円以上27万円未満の場合、標準報酬月額は26万円です。同表では、40歳未満・介護保険なしの場合、標準報酬月額26万円に対する健康保険の折半額は12,805円、子ども・子育て支援金の折半額は299円、厚生年金の折半額は23,790円です。
| 項目 | 計算 | 会社負担 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 260,000円 × 9.85% ÷ 2 | 12,805円 |
| 子ども・子育て支援金 | 260,000円 × 0.23% ÷ 2 | 299円 |
| 厚生年金 | 260,000円 × 18.3% ÷ 2 | 23,790円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 260,000円 × 0.36% | 936円 |
| 雇用保険・事業主負担 | 250,000円 × 8.5/1,000 | 2,125円 |
| 合計 | 39,955円 |
子ども・子育て拠出金は事業主負担で、令和8年度の東京支部保険料額表では拠出金率0.36%とされています。
雇用保険料率は、令和8年度の一般の事業では事業主負担8.5/1,000、労働者負担5/1,000、合計13.5/1,000です。
したがって、会社側から見た月間人件費は、
250,000円 + 39,955円 = 289,955円
月160時間勤務で割ると、
289,955円 ÷ 160時間 = 約1,812円
この条件では、事務スタッフの1時間あたりの実質人件費は、
約1,800円
として試算できます。
なお、ここには賞与、退職金、採用費、教育費、福利厚生費、労災保険などは含めていません。
実際の会社負担は、企業ごとに補正が必要です。
経理システム提案を数字に変える
経理システムを提案する場合、機能説明だけで終わらせず、数字へ変換します。
たとえば、以下のように整理します。
現在、請求書処理に1人あたり月20時間かかっているとします。
対象者が4名であれば、月80時間の事務工数です。
事務職の実質時給を約1,800円で見ると、月144,000円、年間1,728,000円分の工数が発生しています。
仮にシステム導入で作業時間を50%削減できる場合、年間約864,000円分の改善余地があります。
計算は以下です。
| 項目 | 計算式 | 結果 |
|---|---|---|
| 月間工数 | 20時間 × 4名 | 80時間 |
| 月間工数金額 | 80時間 × 1,800円 | 144,000円 |
| 年間工数金額 | 144,000円 × 12か月 | 1,728,000円 |
| 50%削減時 | 1,728,000円 × 50% | 864,000円 |
ここまで示すと、提案は抽象論から判断材料へ変わります。
顧客は、導入によってどの程度の経費削減インパクトがあるのかを把握できます。
経費削減は利益に近いインパクトを持つ
経費削減は、法人提案の中でも強いテーマです。
削減できた金額が、利益改善に近い形で効くためです。
たとえば、粗利率30%の会社で考えます。
100万円の粗利を増やすには、売上で約333万円が必要です。
一方、経費を100万円削減できれば、利益に近い形で改善します。
だからこそ、経費削減提案では次の数字を押さえます。
何時間削減できるのか。
何人に影響するのか。
人件費換算でいくらなのか。
年間でいくら改善するのか。
この数字がない提案は、判断材料として弱くなります。
売上向上提案の基本
売上向上の提案では、次の式で考えます。
売上 = アプローチ数 × アポ率 × 受注率 × 平均単価
利益まで見るなら、
粗利 = 売上 × 粗利率
売上向上の提案で重要なのは、
どの数字が変わるのか
を明確にする視点です。
見るべき数字は、主に以下です。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| アプローチ数 | 接点を持つ件数 |
| アポ率 | アプローチから商談化する割合 |
| 商談数 | 実際に提案できる件数 |
| 受注率 | 商談から契約になる割合 |
| 平均単価 | 1件あたりの売上 |
| 粗利率 | 売上のうち利益として残る割合 |
売上向上提案では、売上だけで終わらせず、
粗利がどれだけ増えるのか
まで見ます。
売上向上提案の計算例
現状が以下だとします。
| 項目 | 現状 |
|---|---|
| 月間アプローチ数 | 1,000件 |
| アポ率 | 5% |
| 商談数 | 50件 |
| 受注率 | 20% |
| 受注数 | 10件 |
| 平均単価 | 500,000円 |
| 月間売上 | 5,000,000円 |
営業支援によって、月間アプローチ数が1,200件に増えた場合。
| 項目 | 改善後 |
|---|---|
| 月間アプローチ数 | 1,200件 |
| アポ率 | 5% |
| 商談数 | 60件 |
| 受注率 | 20% |
| 受注数 | 12件 |
| 平均単価 | 500,000円 |
| 月間売上 | 6,000,000円 |
差分は、
6,000,000円 − 5,000,000円 = 月間1,000,000円の売上増
粗利率30%なら、
1,000,000円 × 30% = 月間300,000円の粗利増
売上向上提案では、
売上ではなく粗利まで設計する視点
が重要です。
営業部門への提案は、削減と売上向上を同時に見る
営業部門向けの提案は、数字にしやすい領域です。
削減した時間を営業活動に再配分できるためです。
たとえば、AIツールによって商談記録、メール作成、情報入力などの時間を削減できるとします。
この場合、提案価値は2つあります。
事務工数の削減。
営業接点の増加。
つまり、経費削減と売上向上を同時に設計できます。
AIツール提案の試算例
前提は以下です。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 営業人数 | 10名 |
| 1人あたり削減時間 | 1日30分 |
| 営業日数 | 月20日 |
| 合計削減時間 | 月100時間 |
月100時間を新規アプローチに回した場合を考えます。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 1件あたりのアプローチ時間 | 15分 |
| 増やせるアプローチ数 | 400件 |
| アポ率 | 5% |
| 増える商談数 | 20件 |
| 受注率 | 20% |
| 増える受注数 | 4件 |
| 平均単価 | 500,000円 |
| 増える売上 | 2,000,000円 |
| 粗利率 | 30% |
| 増える粗利 | 600,000円 |
提案トークにすると、こうです。
AIツールによって、営業1名あたり1日30分の事務作業を削減できるとします。
営業10名で見れば、月100時間の削減です。
その時間を新規アプローチに回すと、1件15分計算で月400件の接点を追加できます。
アポ率5%なら20商談、受注率20%なら4件の受注増加。
平均単価50万円であれば売上200万円、粗利率30%であれば粗利60万円の改善余地があります。
ここまで落とし込むと、AI導入の提案は単なるツール説明から、投資判断に使える提案へ変わります。
顧客は、導入によってどの数字が変わるのかを把握できます。
商談前に仮説を持つ
商談では、感覚ではなく数字を確認します。
ただし、顧客がすべての数字を正確に把握しているとは限りません。
そのため、営業側でも事前に仮説を置いておきます。
商談は、数字を一から聞き出す場というより、
事前に立てた仮説を、顧客の実態に合わせて補正する場
です。
商談前に見る情報
| 見る情報 | 確認する内容 |
|---|---|
| 求人情報 | 給与水準、募集職種、業務内容 |
| 会社規模 | 従業員数、部門人数の仮説 |
| 事業内容 | 売上構造、顧客単価の仮説 |
| 採用状況 | 人員不足や業務負荷の有無 |
経理職の求人が出ていれば、
「経理業務に工数がかかっている可能性がある」
と考えられます。
営業職を増やしている会社であれば、
「アプローチ数や商談数を増やしたい可能性がある」
と仮説を立てられます。
営業準備では、資料確認に加えて、
顧客の数字を想定する視点
が欠かせません。
質問ではなく、仮説確認にする
数字を確認するときは、単に質問を並べないようにします。
「何時間ですか」
「何人ですか」
「何%ですか」
と聞き続けると、顧客は答えにくくなります。
重要なのは、営業側で仮説を持つ姿勢です。
たとえば、経費削減提案であれば、
現在の正確な数字がなければ、まず概算で問題ありません。
仮に1件10分、月300件処理している場合、月50時間の工数になります。
この前提は、実態に近いでしょうか?
売上向上提案であれば、
仮に月50商談、受注率20%、平均単価50万円で見ると、月間売上は500万円です。
商談数が10件増えれば、同じ受注率で2件の受注増加。
月100万円の売上増加余地があります。
この前提は、大きくズレていないでしょうか?
この聞き方であれば、商談は具体的になります。
数字が出ない場面では、まず概算を置きます。
そのうえで、顧客と一緒に実態へ近づけていきます。
試算シートを用意しておく
数字で提案するなら、頭の中だけで計算せず、商談前に試算シートを用意します。
シートがあると、
商談前に仮説を作れる。
商談中に数字を確認できる。
提案後に費用対効果を見せやすい。
というメリットがあります。
重要なのは、きれいな資料を作る作業ではなく、
顧客と同じ数字を見ながら会話できる状態を作る視点
です。
経費削減シート
| 入力項目 | 例 |
|---|---|
| 対象業務 | 請求書処理 |
| 対象人数 | 4名 |
| 1人あたり削減時間 | 月20時間 |
| 実質時給 | 1,800円 |
| 月間削減効果 | 144,000円 |
| 年間削減効果 | 1,728,000円 |
| 削減率 | 50% |
| 年間改善余地 | 864,000円 |
| 月額費用 | 100,000円 |
| 差引効果 | 月44,000円 |
使う式はシンプルです。
月間削減効果 = 削減時間 × 対象人数 × 実質時給
年間削減効果 = 月間削減効果 × 12か月
差引効果 = 削減効果 − サービス費用
売上向上シート
| 入力項目 | 例 |
|---|---|
| 追加アプローチ数 | 400件 |
| アポ率 | 5% |
| 増加商談数 | 20件 |
| 受注率 | 20% |
| 増加受注数 | 4件 |
| 平均単価 | 500,000円 |
| 売上増加額 | 2,000,000円 |
| 粗利率 | 30% |
| 粗利増加額 | 600,000円 |
| 月額費用 | 100,000円 |
| 差引粗利 | 500,000円 |
使う式は以下です。
増加商談数 = 追加アプローチ数 × アポ率
増加受注数 = 増加商談数 × 受注率
売上増加額 = 増加受注数 × 平均単価
粗利増加額 = 売上増加額 × 粗利率
数字を見える化すると、商談は感覚ではなく検討に変わります。
試算シートのダウンロード
経費削減・売上向上の試算に使えるテンプレートはこちらからダウンロードできます。
▶ 経費削減・売上向上 試算シートをダウンロード
※ここにダウンロードURLを設置
商談前に一度、仮説を入れておく。
商談中に、顧客の回答に合わせて数字を補正する。
提案時に、投資対効果として提示する。
この流れで使うと、提案の精度が上がります。
試算は断定ではなく、仮説である
数字で提案するときには、注意点があります。
試算は、断定ではなく仮説です。
大切なのは、正確に言い切る姿勢よりも、
顧客と同じ前提を置き、その前提を商談の中で補正していく姿勢
です。
数字を大きく見せるための試算ではなく、顧客が意思決定しやすくするための試算として扱います。
ここを間違えると、数字で語っているように見えて、ただの強引な営業になります。
信頼される営業は、数字を使って煽りません。
数字を使って、判断材料を整理します。
まとめ
法人営業で求められるのは、流暢な商品説明よりも、
顧客の課題を数字に変える力
です。
法人提案には、経費削減、売上向上、利益改善、リスク低減、品質改善、採用力強化、ブランディングなど、さまざまな価値があります。
その中でも、最初に扱いやすいのが、
経費削減
売上向上
の2つです。
経費削減なら、
削減時間 × 実質人件費 × 対象人数
売上向上なら、
アプローチ数 × アポ率 × 受注率 × 平均単価
この型で考えます。
顧客が数字を答えられない場合でも、営業側が概算を置く。
その前提を商談で補正する。
そして、投資判断できる形に整える。
商品を説明する前に、効果を設計する。
感覚で話す前に、数字で翻訳する。
経費削減か、売上向上かを入口にして、提案を組み立てる。
この型が、法人営業の提案品質を安定させます。
参考情報
・全国健康保険協会 東京支部 令和8年度保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/assets/R8_13tokyo.pdf
・日本年金機構 厚生年金保険の保険料
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html
・厚生労働省 令和8年度 雇用保険料率のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/001692566.pdf

